ミーの寝言
   〜強くなければならんのだ

わしはSaori家の初代にゃんである。
わしが来るまで、ここでは猫はあまり好かれてはいなかったようじゃ。
縁とは不思議なものじゃ・・・。

そもそもわしはどこかの家猫であったらしい。
もう忘れた。
「男たるもの強くなければならん!」
「強い証に子孫を残さねばならん!」(*1)・・・そう思っていたことだけはよく覚えておる。
そして実際わしは強かった。 だから子孫をたくさん残した。
今もどこかで暮らしておるじゃろう。 そう信じたい。

しかしわしも歳をとった。
ケンカも弱くなったし、寒いのも暑いのもいやじゃと思うようになった。
いつかの怪我で片目を失い、それでも一人で頑張ってきたのじゃが・・・。

ある夏の暑い日じゃった。
小さな男の人間(*2)がわしの前を通りかかった。
「おいで、おいで」・・・と偉そうにわしを呼んでいた。
『人間は信用できない』・・・一人きりの生活でわしが学んだことじゃ。
小さな人間とて油断は禁物じゃ。 逃げるべし。

次の日また小さな人間と出会った。
今度は手に美味そうなものを持って現れおった。
こしゃくな真似をしやがって。 油断してはイカン。 逃げるべし。

次の日も、そのまた次の日も小さな人間は現れた。
やはりいつもの美味そうなものを持ってわしを呼んでいる。
「油断しなければよいのじゃ」・・・腹が減っていたわしはほんの少し近づいてやった。
小さな人間は何故か嬉しそうに美味そうなものをそこに置いた。
「ニヤリ・・・」わしはくわえてそして・・・。 逃げた。

それでも毎日顔を合わせていると、不思議と情が移るものじゃ。
その日から毎日美味そうなもの(それはそれは美味かった)を食ったわしは
この人間は安全かもしれんと思うようになった。
歳をとってケンカは弱くなったが、その分わしは賢くなった。
美味いものを食いながら、わしはずっと考え続けていた・・・。

そしてついにその考えを実行にうつす事に決めたのじゃった。
いつもの場所、いつもの時間。
いつものようにやって来た小さな人間にわしはすり寄った!!!
「殴られるかもしれん」・・・ 「蹴られるかもしれん」・・・
頭の中は今までの辛かった記憶がぐるぐると回っていた。
そのわしの頭の上に置かれた小さな手・・・。

その日からわしはSaori家の『飼い猫』として生きる事なったのじゃった。
快適な飼い猫暮らし。
男の証がなくなってしまったからもう子孫は残せんが、
わしが本当に望んでいたものは実はこれじゃったのかもしれん。

ただ今でも思う。
やっぱり猫は強くなければならんのじゃ。
ケンカだけじゃなく、頭も強いわしじゃから自分で幸せを掴めたのじゃ。
あの日の小さな人間は、今はずっとわしの側に居て、もう離れる事はない。
でも他の家族もわしはここで待っている。
いつか皆で一緒に虹の橋を渡るのじゃ。

*1 ミーは我が家に来たとき未去勢でした。
*2 一足先にミーに会いにいった私の弟
昔はバリバリの犬派でした(苦笑)
ミーと弟Tがいなかったら今の私は絶対に居なかった。
ミーがきた時私はまだ小学生・・・。
この話は大部分を母の記憶に頼って書きました。

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